研究グループ:色・心理
研究概要
オフィスワーカーを取り巻く環境はその人の心理や生理に大きな影響を与え,それがワーカーの知的生産性や創造性に大きな影響を与えます.照明においては,寒色系の照明は人に緊張を与え,暖色系の照明は人にリラックスを与えます.単純作業の場合,作業自体に面白さはないので照明などによって緊張感を高めて作業性を向上させる必要があります.一方,創造的な仕事は,それ自体にエキサイティングな要素があるため,むしろ環境からの緊張は取り除くのが良く,リラックスできる照明が適しています.また,照度を下げる方が集中作業に適しています.こうした環境が人の心理・生理に与える影響を,これまで研究で用いられてきた主観的評価のみならず,心拍といった生理的指標をもちいて明らかにする研究を行います.こうした研究を進めることで,オフィスワーカーの創造性を向上させる環境が分かると考えられます.
図1 色光下で点灯された部屋

図2 心理評価アンケート(SD法)
研究題目
・照明色温度と壁面の色との調和と執務快適性の関係近年,情報通信技術の発達によって,働く時間と場所の選択肢が広がり,オフィスワーカの価値観やワークスタイルの多様化が進んでいます.それに伴い,会議室および個人の執務スペースなどの様々な空間においてワーカの執務を支援するオフィスづくりが求められています.その一例として,パーティションや壁面の色彩といったワーカの快適性に関わる心理的影響を考慮した環境設計が挙げられます.そのため私の研究では,執務空間の快適性を考える上で色彩を要素のひとつとみなし,個人の執務空間におけるパーティション,照明の色彩および照明の色温度を変化させ,ワーカの執務に及ぼす影響を検証します.検証方法は,照明および壁面の色を指定し,その空間内で被験者実験を行います.そして心拍数などの生体情報から,執務快適性を検証します.
・フルカラーLEDを用いた選好色度に関係する要因の分析
近年,オフィスなどの執務空間において快適性や知的生産性を向上させる環境に関する研究が盛んに行われています.なかでも光環境にその大きな要因があり,色光が人の生理および心理に与える影響が広く注目を集めています.そして,それら色光を最適に制御することで知的生産性の向上に大きく寄与するものと考えられます.また従来は蛍光灯や白熱電球などでは白色光しか用いることが出来ず,色光制御が困難であったが,LED照明の発達により,白色以外の様々な色の光を表現が可能となっています.そこで本研究では,執務空間の快適性を考える上で個人が快適だと感じる色光を選好する要因の分析を行います.実験に際して,フルカラーLEDを用いて任意に色光を選択できるシステムを構築しました.また実験では,被験者にVDT作業と色光の選好を交互に行ってもらい,作業の前後でアンケートを行ってもらいます.以上の実験より得られた結果より,色光の選好要因の検討を行います.
・フルカラーLED照明を用いた任意の色光空間の実現手法
LED照明が普及する中,様々な色の光を実現することが可能となっており,生活空間や執務空間においては,従来の白色光だけではなく,特殊な色光空間を導入することが容易となってきています.また,オフィスなどの執務空間における,快適性や知的生産性を向上させる環境に関する研究が行われており,この中でも光環境が強い影響を与える要因であることが分っています.その中には,色光に関する研究もあり,特定の色光下では,人に対して,心理的・生理的影響を及ぼすことがわかっており,個人の執務内容や体調に応じて色光を選択することで,快適性や知的生産性の向上を図ることができると考えられます.
通常調光可能なLED照明は,点灯可能な色は定められている場合が多く,特定の色しか実現することが出来ません.本研究では,フルカラーLED照明を用いて,指定した場所に対して,目標とする色度を実現する照明の制御方法についての検討を行います.
・執務における最適な照度・色温度に及ぼす執務前の照明環境および行動の影響
近年,執務作業における最適な照明環境についての研究がされてきました.先行研究では,色温度に関係なく低照度を好む傾向があることや体調によっても選好が異なることなどが報告されています.その中で,執務に入る前の環境が執務作業における最適な照明環境に影響を与えるのではないかと考えられます.そこで本実験では,執務作業前に屋外でウォーキングなどの何らかのスポーツをしてもらい,特にそれらの執務作業前の照明環境が個人の執務における最適な照明環境にどのような影響を与えるかを検討します. ・照度・色温度変化に対する疲労度の影響
ストレス社会における大きな問題である過労死者や慢性疲労患者の減少に貢献するべく,疲労度を最小にする照明の照度と色温度に関する研究を行います.また将来的には疲労度により照明制御ができる環境の構築を目指します.疲労とは休みなく心身を使うことによって生体機能に障害が生じた状態を指し, それに対し,疲労感は疲労を脳が主観的に定量する感覚を指します. 疲労感は,報酬ややり甲斐などでマスクされ易いため,疲労感のみで疲労を定量しようとすると,様々な問題が生じます.このため,本研究では疲労の測定をバイオマーカーを利用した方法で検討します.
研究結果
・色度図上における人間の許容照明環境領域色光空間における人間の彩度の許容領域の検討を行い,その実験の結果,個人ごとにその許容領域が異なることが分りました.また,被験者に異なる作業(執務と食事)を,異なる色相の色光下で行ってもらい,その色光の評価を行なってもらうという実験を行いました.その結果,執務と食事では,それぞれ別の色光が高い評価を得ており,作業内容によって適した色光があることが分りました.

図3 選好色温度の変化(タイプA・B)

図4 選好色温度の変化(タイプC・D)
・照度・色温度可変型照明システムの構築と執務における最適な照度および色温度
本研究では,各個人が要求した照度および色温度を実現するシステムを構築し,被験者の選好照度および選好色温度を明らかにする実験を行いました.実験の結果より各個人が好む光環境は多様であり,体調や時間帯によっても異なることが分りました.

図5 被験者毎の許容色度領域

図6 作業内容による色光許容時間