本稿では,タンパク質の構造やそれを支える結合などタンパク質に関する基礎知識,また,タンパク質の立体構造解析について述べる.
タンパク質はアミノ酸がペプチド結合により多数つながった,ポリペプチド鎖と呼ばれる生体高分子である. タンパク質を構成しているアミノ酸は20種あり,その並びや組み合わせによって様々なタンパク質が作られる.
タンパク質のアミノ酸配列を一次構造と呼び,一次構造から立体構造が決定される. タンパク質は,ポリペプチド鎖が折り畳まれて立体構造を作ることにより生物学的な機能を果たすことができる.
その機能は,立体構造と密接に関わっているため,立体構造に関する知見は機能の解明に重要な役割を果たす.
タンパク質は生命現象にかかわる重要な物質であり,機能を解明することは様々な生命現象の解明につながるため,
機能と構造の関係を明らかにしようとする研究がさかんになされている.
実際は,タンパク質分子がとる立体構造はアミノ酸の配列から一意に決定され,タンパク質分子のエネルギーが最小となる状態に対応する.
近年はこのことを利用して,最適化手法を用いてエネルギー最小状態を探索する分子シミュレーション法
と呼ばれる手法が用いられている.
タンパク質は,生物の体を形成する主体であり,生命現象に直接関わる重要な物質である. 従来は,生命現象を解明するためにゲノム(遺伝子情報)のみが研究されてきた. 今後は,1次元の遺伝子情報の3次元表現であるタンパク質の機能を解明することが必要であるとされている.タンパク質の機能的性質を解明することは,タンパク質に起因する病気(アルツハイマー,狂牛病,O157など)の治療や新薬の開発など, 様々な生命現象の仕組みの解明につながる. タンパク質の生物学的機能はその構造と密接に関わっているため,構造と機能の関係を解明することが重要となる. しかし現在では,構造が未知であるタンパク質が多く,タンパク質の立体構造解析は世界中で注目され,研究されている.
タンパク質はアミノ酸がつながり,それが立体的に折り畳まれることによってその機能を果たしている.
アミノ酸は, 1個の中心となる炭素原子(Cα)にアミノ基(-NH2),カルボキシル基(-COOH), 水素原子(-H),側鎖(-R)が結合したものである.側鎖はアミノ酸ごとに異なる原子団で, 各アミノ酸の性質を決定する部分である. アミノ酸の構造をFig:1 に示す.
あるアミノ酸のカルボキシル基と他のアミノ酸のアミノ基の間で縮合反応が起き,脱水して ペプチド結合が形成される.Fig:2 にペプチド結合の構造を示す.
タンパク質は,アミノ酸がペプチド結合によって多数(数十から数千個)連なった鎖状の生体高分子である. この過程が繰り返され,ペプチド結合の鎖が伸びる. この繰り返しの単位(NH-CH-CO)をアミノ酸残基と呼び,主鎖と側鎖(R)に分けられる. アミノ酸が数個結合した分子をオリコペプチド,多数結合した分子をポリペプチドと呼ぶ. このポリペプチド鎖がタンパク質である.タンパク質のアミノ酸配列(分子式)を,一次構造と呼ぶ. タンパク質を構成するアミノ酸の種類は全部で20種類あり, その並びの順番や組み合わせの変化によって様々なタンパク質が作られる. ヒトの身体の働きを担うタンパク質は約10万種,新薬の開発などに役立つタンパク質は約1万種存在すると報告されている.
タンパク質はポリペプチド鎖が折りたたまれた状態で存在し,三次元の立体構造を作ることにより生物学的な機能を発揮している.アミノ酸側鎖が様々な方向に突き出すことによってできる 凹凸部分には機能的な働きを担う部位があり, それらが重なると非常に複雑な働きが可能になる. ポリペプチド鎖内の結合は,結合を中心軸として自由に回転できるものが多いため, タンパク質のとり得る立体構造は,原理的には膨大な数に上る. 実際は,立体構造はアミノ酸配列(一次構造)から一意に決定され, これはタンパク質分子の熱力学的なエネルギーが最小となる状態に対応している.
ポリペプチド鎖に沿ったアミノ酸の配置(アミノ酸配列).
立体構造の部分構造にあたるポリペプチド鎖の規則的な配置. 疎水性アミノ酸残基の側鎖は疎水性であるのに対し,主鎖は親水性であり,主鎖の極性をアミノ酸間(アミノ基とカルボキシル基)の水素結合により中和している. 水素結合により,エネルギー的に最も安定した構造である.二次構造には次の4つが挙げられる.
ポリペプチド鎖が規則正しく螺旋状(右巻き)に巻いた構造(Fig:3 )で,タンパク質における主要な二次構造である. 一回転(1ターン)あたり3.6個のアミノ酸残基を含み,1ターンは0.54nmの距離がある. 全てのNHとCOは水素結合(Fig:4 )により結合し,1回転あたり4個の水素結合を形成している.
平行に配置した2本のポリペプチド鎖が,水素結合により固定された平板状の構造(Fig:3 ). 2本のポリペプチド主鎖の方向が同じものを平行βシート(Fig:5 ),逆方向のものを逆平行βシート(Fig:6 )と呼ぶ. 平行と逆平行のシートが組み合わさった混合シートというものも存在する.
αへリックスとβシート間をつなぐ,ポリペプチド主鎖の折れ曲がった部分. タンパク質分子の表面に存在し,ループによって長さや構造が様々である.
ループ領域中の局所的に規則的な部分で,3〜4個のアミノ酸残基から成る.
ポリペプチド主鎖が180度折り返すU字型の構造である.
二次構造同士の配置で,通常状態で1本のポリペプチド鎖がとる立体構造. 主鎖の折りたたまれ方は一定のパターンが多いが,側鎖は様々な方向に突き出している. タンパク質の機能は三次構造によってかなりの部分が規定されることから, 三次構造はタンパク質の機能解析に重要な役割を果たす. 三次構造には,以下のようなものがある
αへリックス,βシートの組み合わせ. 最も単純なモチーフは,2個のαへリックスがループ領域でつながったものである.
数個のモチーフが集まり,密な球状構造を形成したもの. 二次構造が組み合わさってできた構造で,30〜350残基の長さがあり,三次構造の基本単位である. 一般的なタンパク質は複数のドメインから成り,各ドメインはターン構造によりつながっている. ドメインは機能的な単位でもあり,ドメインごとに独立した機能を分担している場合が多い.
複数のポリペプチド鎖がより集まった構造.個々ポリペプチド鎖を「サブユニット」と呼ぶ. サブユニット単独のものを「単量体」と呼び, それらが集まったサブユニット構造は「多量体」と呼ばれる. サブユニット同士は,主に接触面に存在する疎水性アミノ酸残基による疎水結合と, 接触面全体から生じるファンデルワールス力によって結合していると考えられている.
これら二次,三次,四次構造をまとめて高次構造と呼ぶ.
タンパク質の階層構造をFig:7 に示す.
タンパク質の高次構造は,様々な力によって保持されている.タンパク質の高次構造を支えている結合を以下に示す.
イオウ原子(S)同士による共有結合
反対の電荷を持つ残基間の電気的な結合.タンパク質では,負に荷電した酸性アミノ酸残基の側鎖と,正に荷電した塩基性アミノ酸残基の側鎖が結合している.
水素原子が,酸素・窒素原子など電気的に陰性の原子に共有されることによって生じる結合.
原子間に働く弱い力. タンパク質分子の表面同士が密着する場合の重要な結合力となる.
疎水性の残基が水と接触しないように互いに集まろうとして生じる結合.アミノ酸残基の側鎖は疎水性である.
タンパク質の立体造解析は,扱う情報量は膨大さ,解析の複雑さから,コンピュータやソフトウェア,データベースなどの力が必要であるとされている. そこで生まれたのが,バイオテクノロジーとITを融合させたバイオ・インフォマティクス(生物情報科学)という技術であり,
これからの大きな展開が期待されている. 近年の研究では,タンパク質の立体構造にはパターンがあると考えられており, 類型化や特徴の把握によって構造と機能の相関を明確にしていくことが考えられている.
またゲノム解析の高度化により,未知であったタンパク質のアミノ酸配列が解明され, ゲノム情報と併せた系統的な研究が可能になってきている.
以下では,タンパク質の立体構造解析の方法について述べる.タンパク質の立体構造解析の手法には,実際のタンパク質から解析する方法と,コンピュータシミュレーションによる方法がある.
実際のタンパク質から立体構造を予測する方法.
タンパク質分子の結晶構造にX線を当て,x線の回折パターンの情報から結晶中の電子密度の立体的な分布を計算する方法 . タンパク質分子を結晶化する必要があるが精度は良く,広く用いられている.
水素原子核の距離情報とタンパク質の配列情報から立体構造を決定する方法 . 結晶化できないタンパク質や可動部分の多いタンパク質に適している. 解析できるのは分子量の小さいタンパク質に限られる.
運動方程式に基づいて分子のふるまいをコンピュータ上でシミュレートすることにより,タンパク質の立体構造の挙動を予測する方法. 実験による経験的知識を必要としないので,非経験手法とも呼ばれる.
立体構造解析をエネルギー最小化問題としてとらえ,遺伝的アルゴリズム,シミュレーテッドアニーリングなどの最適化手法を用いて,エネルギー最小状態を探索する方法.
タンパク質のフォールディング過程における分子の立体構造の変化をシミュレートする方法.
新規の遺伝子を見つけた際,既知のタンパク質の配列情報と照合する. 配列に類似性があれば共通の祖先から派生したタンパク質と見なし,その機能を推定する.
既知の立体構造情報と配列を比較し,類似性を判定する方法.スレディング法や3D1D法などがある.
分子は原子が共有結合を行うことにより形成されている.
これらの分子の空間的な構造を決定するパラメータは,以下の3つである.
Fig:8 に3つのパラメータを示す.
2原子間の距離
3原子によって構成される角
4つ以上の原子から成る分子では,結合を中心軸として自由に回転できる場合がある.その際の結合のまわりの回転角.
実際は,結合長,結合角は原子と結合の種類でほぼ決定されるため,二面角が重要なパラメータとなる.

Fig9: で示すように,タンパク質の主鎖のコンフォメーションは,C-N,N-Cα,Cα-C,C=Oの結合によって構成されている.
このうちC=Oは二重結合であり,C-N結合は共鳴による二重結合性を持つことから, ぺプチド結合面は平面性を保持し,C-N結合の二面角は180度に固定されている.
よって,ポリペプチド主鎖のコンフォメーションは,N-Cα,Cα-Cの2つの二面角φ,ψで特徴付けられる.
これらの二面角は,アミノ基から見て時計回りを正とし,-180度〜+180度の間の値をとる.
実際には,(φ,ψ)の値の組み合わせによっては立体障害が生じることから,任意の値をとることはできず,限定された組み合わせの値をとる.
本稿では,タンパク質のアミノ酸配列である一次元構造,安定した二次構造,それらから形成される立体構造について, 階層的に述べた. 各タンパク質は特有の立体構造を持っており,機能的性質は立体構造と深く関わっていることから,未知の立体構造を解析することが必要となる. タンパク質は,エネルギーが最小となるただ1つの立体構造をとることから, 立体構造解析はエネルギー最小化問題としてとらえることが可能であり, 近年は分子シミュレーション法による最適化手法が注目されている. タンパク質のポリペプチド主鎖は平面性を持ち,2種類の結合の二面角が立体構造解析において重要なパラメータとなる.
Reference
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