タンパク質の基礎

米田 真純

No.1 2002529

 

1.     序章

ヒトを含めて,すべての生物は細胞から作られている.そして,すべての細胞を構成し,複雑な生命現象に関わっている分子(生体分子)は,大きく分けて低分子(小有機分子)と高分子(生体高分子)2種類がある.

小有機分子は,分子量が100から1000まで,炭素数30までの炭素化合物である.それらは,糖,脂肪酸,アミノ酸およびヌクレオチドの4種類に分けることができる.

生体高分子は,各々の小有機分子がユニットとなり,それらがつながったものである.糖がつながって多糖ができ,脂肪酸から脂質ができ,アミノ酸からタンパク質ができ,ヌクレオチドがつながって核酸ができる.したがって,生体高分子も多糖,脂質,タンパク質,核酸の4種類に分けることができる.

生体高分子のうち,タンパク質は様々な生命現象を直接担っている.タンパク質は数万種類以上あり,多種多様である.タンパク質は,わずか20種類のアミノ酸が鎖状に連結して作られているが,それらの並び方が膨大な数であるのに対応して,極めて多種類のタンパク質が存在している.1種類のタンパク質は,それ固有のアミノ酸の並び方をしており,その結果として独自の特異的な働きを担う.このように,タンパク質は全体としての多様性と個々としての独自性(特異性)を併せ持っている.

 

2.     タンパク質の一次構造

タンパク質は,20種類のアミノ酸がつながった鎖状の造りをしている.この20種類のアミノ酸の並び方(アミノ酸配列)は実に多様であり,その鎖の長さも様々である.これらの造りがタンパク質の多様性の源になっている.タンパク質の造りに当たるアミノ酸配列のことを一次構造という.

タンパク質は,アミノ酸どうしがペプチド結合によってつながった生体高分子である.このため,まずアミノ酸がどのような分子であるかを知る必要がある.

 

2.1 アミノ酸の構造式

アミノ酸は,1個の炭素原子にアミノ基(NH2),カルボキシル基(COOH)が結合した分子である.さらに,水素原子(H)と原子団(R)がこの分子に結合している.原子団(R)はアミノ酸ごとに異なっており,側鎖と呼ばれている.Fig.1にアミノ酸の構造式を示す.Fig.1において,中央の炭素原子は,カルボキシル基から見て隣にあるので,α位の炭素原子炭素)と呼ぶ.

 

 

Fig.1 アミノ酸の構造式

 

2.2 ペプチド結合の形成

アミノ酸のカルボキシル基と,隣のアミノ酸のアミノ基との間で縮合反応(2つの分子から水のような簡単な分子が取り除かれて,その2分子が結合する反応)が起こり,ペプチド結合(CONH)が形成される.できた分子をペプチドと呼ぶ.アミノ酸が数個つながった分子をオリコペプチド,多数つながった(重合した)分子をポリペプチドという.このポリペプチドがタンパク質である.タンパク質分子の上で,もとのアミノ酸に当たる部分をアミノ酸残基と呼ぶ.

タンパク質のアミノ酸配列は,アミノ末端からカルボキシル末端へとどのようにアミノ酸残基が並んでいるかを示したものである.

 

 

Fig.2 ペプチド結合の形成

 

2.3 アミノ酸の種類と分類

タンパク質を構成する20種類のアミノ酸は.地球上のすべての生物に共通である.これら20種類のアミノ酸はそれぞれ異なる側鎖(R)を持っており,化学的性質が多様である.このことがタンパク質の造りと姿の多様性をもたらしている.

20種類のアミノ酸は,側鎖の化学的性質によって,非極性アミノ酸,極性非電荷アミノ酸,塩基性アミノ酸,酸性アミノ酸の4つのグループに分類される.

 

Fig.3 アミノ酸の分類

 

3  タンパク質の高次構造

3.1  タンパク質の階層構造

種類の違うタンパク質の三次構造どうしを比べると,三次構造全体はそれぞれ独自のタンパク質であるが,ポリペプチド鎖の折りたたまれ方によく似たパターンがある.三次構造の一部分に当たるこれらの折りたたまれ方を二次構造という.二次構造には代表的なものとして,αへリックスとβシートがあり,これらは頻繁に見られる構造である.そしてαへリックスやβシートの間をつなぐ部分は,ポリペプチド鎖の長い折れ曲がりであるが,長さや構造がまちまちのループと呼ばれる部分を含む.さらに,ループの中に,ターンと呼ばれる,34アミノ酸残基でできたU字形の二次構造が見られることがある.

すべてのタンパク質は1本のポリペプチド鎖のみから成り立っているわけではなく,中にはポリペプチド鎖が複数個より集まった構造を持つものもある.このより集まっているポリペプチド鎖一つ一つをサブユニットという.サブユニットの構造(種類や数)のことを四次構造と呼ぶ.タンパク質の二次構造,三次構造と四次構造をまとめて,高次構造という.

 

 

Fig.4 タンパク質の階層構造

 

3.1.1 二次構造

タンパク質の立体構造において,ポリペプチド主鎖の折りたたまれ方には,二つのパターンがしばしば見られる.よって,ここではそれらの二つの二次構造について述べる.

 

·         αへリックス

αへリックスは1本のポリペプチド主鎖が規則正しくらせん状に巻いた構造になっている.そこでは,すべてのペプチド結合が水素結合を形成しており,エネルギー的にもっと安定な状態である.

1ピッチは0.54nmの距離があり,そこに3.6アミノ酸残基がくる.そして,アミノ酸残基の側鎖は,らせん状の外側に突き出している.また,タンパク質分子中のらせんは右巻きである.

αへリックスは,多くの球状タンパク質に多数存在する二次構造である.アミノ酸残基の中には,αへリックスを形成しやすいものと,aへリックスを壊す傾向にあるものがある.

 

·         βシート

βシートは,平行に配置された2本のポリペプチド主鎖が水素結合によって固定された構造である.2本のポリペプチド主鎖の方向が同じものを平行βシート,反対方向のものを逆行βシートと呼ぶ.

βシートは3本以上のポリペプチド主鎖が平行に並ぶことも多い.この場合,水素結合をできるだけ形成し安定になるので,全体として見るとひだのある平板状になる.

βシートは,球状タンパク質の骨組みになっている場合が多い二次構造である.アミノ酸残基の中には,βシートを形成しやすいものと,しにくいものがある

 

Fig.5 αへリックス         Fig.6 βシート

 

3.1.2 三次構造

タンパク質の姿である三次構造は,タンパク質の結晶のX線解析や溶液状態でのNMRによって決められる.それぞれのタンパク質が独自の複雑な三次構造を持っているがゆえに,それぞれに特異的な機能を果たし得る.

タンパク質の複雑な三次構造には,αへリックスとβシートの二つの二次構造が随所に見られる.そして,αへリックスとβシートの間にはループ領域と呼ばれるひも状の部分がある.ループ領域の中には,局所的に規則的構造をとるものがある.その一つに,ターンがある.ターンは,34アミノ酸残基でポリペプチド主鎖がU字型のループ構造である.ループは長さや構造がまちまちであるが,ターンはある決まった構造をとる.したがって,ターンも二次構造の一つと考えることができる.ターンは,球状タンパク質の三次構造の形成に必須である.

 

Fig.7 ターン         Fig.8 タンパク質の三次構造

(引用先:http://www.jpo.go.jp)

 

タンパク質の骨組み(ポリペプチド主鎖の折りたたまれ方)には一定のパターンがあるが,重要なことは,この骨組みからアミノ酸側鎖が様々な方向に突き出していることである.そして,このアミノ酸残基の配列はそれぞれのタンパク質に独特のものであり,タンパク質は独特の化学的性質を持ち,特異的な機能を果たす.側鎖がタンパク質分子の外側に突き出しているアミノ酸残基は,タンパク質の全体的な化学的性質を決めたり,タンパク質の機能に直接関わったり,他のタンパク質などの生体分子との相互作用に関わったりしている.側鎖がタンパク質分子の内側に突き出しているアミノ酸残基は,疎水結合などを通して,全体としての三次構造の維持に働いている.タンパク質は精密な三次構造を持っているため,1個のアミノ酸残基を変化させるだけで,その三次構造が壊れたり,機能が失われたりすることが少なくない.

 

3.1.3 ドメイン構造とサブユニット構造

多くのタンパク質では,ループ領域でつなげられたいくつかのαへリックスやβシートが構造的に独立した球状構造を形成することがある.これをドメインという.ドメインは通常,50350アミノ酸残基の長さであり,二次構造が組み合わさってできた単位である.

 

Fig.9 ドメイン構造

(引用先:http://www.tuat.ac.jp/ kamitori/research/protein.html

 

ドメインが1個しかない小さなタンパク質もあるが,多くのタンパク質は複数のドメインから成っている.ドメインとドメインの間は,比較的伸びたポリペプチド主鎖(ループ領域)でつながっており,各ドメインの構造的な独立性をもたらしている.ドメインは,機能的にも独立しており,異なった機能を分担している場合が多い.

モチーフとは,ドメインより小さな部分構造であり,機能的な最小単位となる部分構造を指す.

 

タンパク質の中には,1本のポリペプチド鎖から成っているもの以外に,ポリペプチド鎖から成っているもの以外に,ポリペプチド鎖が複数より集まった構造を持つものが多く見られる.この集合している個々のポリペプチド鎖をサブユニット構造という.サブユニットどうしは,非共有結合によって結合していることが多い.主なものとしては,サブユニットの接触面に存在する疎水アミノ酸残基に疎水結合と,接触面全体から生じるファンデルワールス力であると考えられている.

 

3.2  タンパク質の高次構造を支える力

タンパク質の高次構造は,様々な力によって保たれている.ポリペプチド鎖上の多数のアミノ酸残基の側鎖どうしの相互作用や,ポリペプチド鎖の主鎖(ポロペプチド鎖の骨組みであるペプチド結合のつながり)のペプチド結合どうし,または,側鎖と主鎖との相互作用がある.さらに,側鎖や主鎖と溶媒である水との相互作用がある.これらの相互作用は,種々の非共有結合によって生じている.また,共有結合であるジスルフィド結合も高次構造を支える大きな結合力となっている.非共有結合には,イオン結合,水素結合,ファンデルワールス力,疎水結合がある.これらの非共有結合は,一つ一つでは共有結合に比べてはるかに弱い力であるが,多数が集まって強い結合力をもたらしている.結合をまとめると以下のようになる.

 

・ポリペプチド鎖および側鎖を形成する共有結合

・ジスルフィド結合(S-S結合)

・イオン結合

・水素結合

・ファンデルワールス力(分子間に働く弱い力)

・疎水結合(疎水性残基が集合しようとして生じる結合)

 

 

参考文献

池内俊彦, 生命を学ぶタンパク質の科学, オーム社, 1999

渡辺公綱 小島修一, 蛋白質工学概論, コロナ社, 1995